X(旧Twitter)の1日の投稿数は、約500億本といわれている。
そんなXの大きな特徴のひとつに、拡散力の高さがある。引用ボタン1つで投稿を共有できるため、正しい情報も間違った情報もあっという間に広がる。誤情報は、人々に誤った情報を与えるだけでなく、時に誹謗中傷や混乱を招く。
こうした問題を受けて、「より正確な情報を入手できるようにすることを目的に作られた機能」がコミュニティノートだ。X社によると「コミュニティノートを見た人間は、そうでない人より投稿をリツイートする可能性が少ない」という調査結果があり、コミュニティノートの存在は誤情報の拡散防止に効果があることを示唆している。
この記事では、コミュニティノートとは何か、どの程度信頼できるのか、またその問題点について検証していく。
そもそもコミュニティノートって?
Xの公式では、コミュニティノートに関して以下のように説明されている。
コミュニティノートは、Xでより正確な情報を入手できるようにすることを目的に作られた機能です。この機能により、誤解を招く可能性があるツイートに、Xユーザーが協力して背景情報を提供することができます。
引用:X ヘルプセンター
簡単にいうと、第3者の投稿に「注釈」をつけられる機能がコミュニティノートだ。
これまで、誤った情報を発信している人がいた場合、それを指摘する術は限定的だった。引用リツイートやリプライ機能はあるが、発信者にツイートを非表示にされる場合もあるし、情報の受け手が誤りを知るためには、数多くのコメントの中から「間違い」を指摘しているコメントを探す必要がある。よほど興味のある情報でない限り、そこまでする人は少ないだろう。
対するコミュニティノートは、ツイートの真下に注釈が表示され、嫌でも全員の目に留まるようにできている。発信者によって非表示にすることもできないため、ツイートを消さない限りは「このツイートは間違っている」ということが全世界に発信され続けるのだ。
コミュニティノートは誰でも書けるの?
では、コミュニティノートは誰が書くのだろうか。その分野の専門家か、Xの中の人か。正解は、「参加資格を満たし、コミュニティー協力者と認定された人なら誰でも書ける」である。
この参加資格は決して難しいものではなく、2024年7月現在では以下の通りとなっている。
コミュニティノートの参加資格
- 2023年1月1日以降、Xルールへの違反がない
- Xに登録してから6ヶ月以上経過している
- 電話番号を認証している
- 信頼できる携帯電話会社の電話番号を所有している
- 他のコミュニティノートアカウントとの関係がない
専門的な知識や実績は要件の中にはない。そのため、上記の要件を満たしてさえいればとりあえずは誰でも申請ができる。
承認には時間がかかる場合も
ただ、申請は簡単でもすぐに参加が承認されるとは限らない。筆者の場合は、昨年MetaPeaceのためにアカウントを開設、公式マークを申請したのだが、その後ほど無くしてX側から「コミュニティノートに参加しませんか?」という招待が来た。このようなパターンもあれば、申請から参加許可が降りるまで3ヶ月〜半年かかったという声もある。
公式には「コミュニティノートは現在、米国のすべてのユーザーに公開されています」との記載があるが、現在のところ詳細な審査基準は明らかにされていない。
コミュニティノートの信頼性
誰でも参加資格があり、専門家でなくても書けてしまうことは先ほど書いた通りだ。では、コミュニティノートはどの程度信頼できるのか。そこには「ノートの内容」と「執筆者の質」を保つための取り組みがある。
コミュニティノートが公開されるまでの流れ
専門家でなくても書けてしまうコミュニティノートだが、Xではその信頼性を担保するためにさまざまなフローを踏んでいる。
参加者によって執筆されたノートはすぐに公開される訳はない。書かれたノートが役に立つか、つまり「公開に値するものか」を他のコミュニティ協力者たちによって評価する期間がある。
評価側のコミュニティ協力者たちのもとには複数の「評価待ち」の未公開ノートが表示されるが、この際、X側は評価者の過去のノートや評価の分析をもとに、1つのノートに対して評価者の思想が偏ることがないようにとの工夫がされている。ここで公開に値しないと評価されたノートは却下され、日の目を見ることはない。
また、この評価の仕組みはノートが一般に公開された後も機能する。公開後に一定程度のマイナス評価が寄せられたノートは差し戻しとなり、非公開となる。
ノートの執筆には評価ポイントが必要
また、晴れて「コミュニティ協力者」になったとしても、すぐにノートを書き始められるわけではない。新規参加者はまず、前述した内部評価のシステムにのっとり、他人の書いたノートを評価することが求められる。
このプロセスは、コミュニティー協力者としての自らの評価(ポイント)に直結する。つまり、自らが役立つと判断したノートが他の協力者からも役立つと評価された場合、自分の評価は上がる。逆に、自分が役立つと評価したノートが他の協力者から不評だった場合、評価は下がる仕組みとなっている。
評価システムは自分が書いたコミュニティノートにも適用され、ポイントという形で加算される。ポイントが多ければ多いほど、執筆可能なコミュニティノート数は多くなり、逆にマイナスになるとコミュニティ参加者であってもノートを書くことはできない。
これらのプロセスにより、コミュニティ参加者が何らかの意図を持って特定のノートを公開・非公開にしたいと考えても、他の参加者により歯止めがかかるしくみが存在している。
一般ユーザーによるノートリクエストも可能
前述した通り、コミュニティ協力者になるには煩雑な手続きが必要だが、一般ユーザーが誤情報やフェイク投稿を発見した際には「リクエスト機能」というものがある。
この機能はコミュニティ協力者に対して、コミュニティノートの執筆をリクエストするものだ。
こちらも数字は公開されていないが、一定以上のリクエストがあった投稿に関してはコミュニティ参加者に対してノートの作成依頼が送られるようになっており、間接的にファクトチェックができる仕組みができている。
コミュニティノートのアルゴリズムは、正確性を担保するために多様なユーザーの意見を反映するよう設計されている。行列分解法を用いてユーザーとノートの関連性を分析し、異なる視点を持つユーザー間での合意を重視する。また、有用性スコアに基づいてノートを選別し、定期的な評価とフィルタリングを実施する。これにより、偏った情報を排除し、信頼性の高いノートを提供することを目指している。これらの情報はX社によりGithub上に公開されている。ご興味のある方はこちら。
コミュニティノートの問題点
誤ったノートが掲載されることもある
ここまで、X社によるコミュニティノートの正確性を保つための取り組みを紹介したが、だからと言って「ノートが付いたからこの投稿は間違っている」と決めつけることは危険だ。
あくまで人間が書いているものなので、間違いや解釈の違いが起こることはありえる。例えば「りんごは赤と青の黄色の3種類がある」という投稿に対して「この投稿は誤りです。りんごは1万5000以上の種類があります」というノートが付いたとする。いうまでもなく、前者はりんごの色について述べていて、後者は品種についての指摘をしている。
ここまで単純なケースは少ないが、ノートの内容が全て真実とは判断せず、こうした解釈違いが存在し得るということを認識しておくことが大切だ。
また、コミュニティノートに不服がある場合、ツイートの投稿者には再審査の申し立てができることも付け加えておきたい。
根強い「コミュニティノート陰謀論」
Xユーザーの中には、「コミュニティノートが付くことこそが投稿が真実である証」として陰謀論的な投稿を支持する人々が一定数存在する。
X上で「コミュニティノート 真実」で検索すると、以下のような投稿がヒットする。
- コミュニティノートは他人のポストに無記名で一方的にコメントを注記できる機能であり、質が担保されているという説明とは裏腹に、真実のポストをデマに見せかけるためのものだ。
- X(旧ツイッター)では、コミュニティノートの罠に騙されずに真実を精査することが重要であり、ノートが付いたポストにこそ真実の情報が含まれている。
- コミュニティノートが貼り付けられているポストは、真実の内容であり、拡散されると都合が悪い情報であることの証拠だ。
ここまで説明したコミュニティノートの仕組みで分かるように、ノートが公開されるまでには多くの人々に評価を受ける必要があり、また公開後も一般ユーザによってノートが「役に立たない」と判断されれば非公開になる。そのため、ノートが付いた多くの投稿は上記のように「大きな力によって都合の悪い情報を覆い隠す」ものではなく、誤情報であった可能性が高い。ただ、このような言説が存在するという事を知っておくことも大切だ。
まとめ:過信は禁物、参考材料に
本記事では、Xのコミュニティノートがどのように機能しているのかを紹介した。コミュニティノートは単なる多数決ではなく、独自のアルゴリズムにより異なる考えを持つユーザー同士が多角的に情報を検証・評価することでその信頼性を高めていることが大きな特徴だ。
ただ、そもそも専門家の間でも意見や解釈が分かれる問題も存在する。人の手によって判断が行われている以上、ノートを信じすぎることもまた危険が伴う。コミュニティーノートは判断材料の一つとして活用し、情報を正しく判断する目を養っていきたい。
参考:
Exploding Topics. “X User Stats”. https://explodingtopics.com/blog/x-user-stats, (参照2024-7-25)
Twitter. “Community Notes”. https://github.com/twitter/communitynotes, (参照2024-7-25)
X. “コミュニティノート”. https://help.x.com/ja/using-x/community-notes, (参照2024-7-25)
arXiv. “Birdwatch: Crowd Wisdom and Bridging Algorithms can Inform Understanding and Reduce the Spread of Misinformation”. https://arxiv.org/pdf/2210.15723, (参照2024-7-25)
X. “コミュニティノートの再審査”. https://communitynotes.x.com/guide/ja/contributing/additional-review, (参照2024-7-25)
コメントを残す